お偉いさんとの飲み会・カツラ疑惑編

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ジェネレーションギャップとカツラ

私は、長年婦人服ブランドのチーフデザイナーだった。
チーフともなると、工場や生地屋さんの部長、専務、社長などと仕事終わりに誘われて飲みに行くような機会も多かった。

当時の私の年齢は20代中頃で、先方の常務は50歳前後だった。
ジェネレーションギャップは、会話する前からもうすでにあった。
そして、その常務には前々からカツラ疑惑があったのだが、とにかく真面目な人で冗談一つ言わない、言った所で面白くも無い、そんな堅物だったので、誰もその部分については触れないようにしていた。

常務も和風居酒屋に着席しての第一声はお偉いさん達の定番
「ゴルフは行かれるんですか?」
だった。
そして、私のいいえ!という答えとともに、いつもの沈黙その1が訪れた。
会話もいつも通り、共通の知り合いの噂話も尽きて、飲むのも食べるのももう限界と言う頃、第2の沈黙が訪れた。

その時、ふとうつむいた常務のヘアスタイルがなんか変だなと思った。
この居酒屋に着いた時よりも前髪が片側に寄っているのかな?と思った瞬間、ふいに例のカツラ疑惑を思い出してしまった。
思い出した途端、前髪は朝から夜までの長い耐久時間に疲れ果て、明らかに片側に寄ってしまった事を理解した。

こんな時の沈黙は地獄だ

だいたいこの手の笑いは作ってでも笑いたい方なのに、今まさにそれが目の前にある。
しかも絶対に笑ってはいけない、年末の番組の様な展開で・・・。
真面目な常務の真面目なお話とは、まるで逆のべたなコントの様なこの頭!!!
人間、極限まで笑いをこらえるとお腹だけが波打って来るのを、ご存じだろうか?

しかし顔が無表情でお腹だけ波打ってる人も気持ちが悪い。そんなのはヨガの修行者くらいしかいない。いつか常務にもバレる。
そこで思い出したのが、女子高の時に1クラスに必ず一人はいるタイプのおバカキャラ、アホの直美が言ってた事だ。
絶対に笑っちゃいけない時に笑いたくなったら、歯が痛い演技をすればいいと言う。
口の中に指を突っ込んで痛い顔をすると顔も苦渋に変わるし、演技に没頭して笑うのも忘れるらしい・・・・アホだな・・・。

口に指を突っ込むのは20代中頃としてはいかがなものかと思ったが、とりあえず片側の頬を押さえて、
「最近ちょっと歯が痛んで・・・。」
と、演じてみた。すると、本当に笑いはスッと引いて行った。
「そりゃいけない。お酒は却って良くないですからね。そろそろ出ましょうか?」
常務ももう出たかったんだろう。救われた感じで、後ろを向いて

「お勘定お願いしま~~す!」
と店の奥に向かって声を上げた。
奥からはなかなか店員が出て来ないので、常務も何回か奥に向かって声をかけたが、その間今度は見なくても良い後頭部が自分の目の前に来てしまった。
しかし、人間一度食いついた笑いは、自ら進んでその先を見つけようとするものだと、この時に知った。
振り返った常務の頭のどっからが人工か?どうやってくっ付いてるのか?脱いだらどうなるのか?

想像の翼が羽を広げて、自分の回りをブンブンいわせているのがわかる。

しかし、人は実際の声を聴かなくても、人の視線や心の声を感じ取る事があるらしい。
「何か・・・???」
もう一度こちらに振り向きざまに、常務は私に向かって真正面からそう問いかけてきた。
きっと後頭部あたりが私の視線でモゾモゾしたに違いない。
だが、その問いかけは無防備だった私の不意を突いてきた。こんなにいきなり振り向くとは思ってなかった・・・。
いたずらな気持ちがバレてどうしようという焦りと、こらえていた笑いが一緒になって

「えっっつ!!!!!」

ものすごい微妙な笑顔で固まってしまった。

本当に何か悪い事でも企んでいたかのような表情だったと思う。
そして、これも不思議な事に、私の表情を見た常務もすべてを理解したように、穏やかな表情はスッと消え、不機嫌な顔に変わって行った。
多分、カツラは常日頃からコンプレックスを感じていて、他人の笑いはすべて自分のカツラに集中しているくらいの被害妄想は持っていたかもしれない。
また他人に笑われてしまった・・・・・傷付いたような気がした。

少しして、奥から店員が出てきて伝票を常務に渡し、事務的に領収書などを処理して会計は終了した。
常務も会計で気分が切り替わり、私の無礼は一瞬にして忘れ去られたかのように見え、そのままお開きとなった。

若さって残酷だ!

あ~~~~~あ!!若いって残酷だ!これは当時を振り返って今思う感想だ。
当時の私は、そんな今の反省とは逆にその後その一件を酒の肴にして、どれだけ笑ってどれだけ飲んだ事か!!
今は年も年なので、適当な会話と適当なお酒をたしなめるようにはなったつもりだ。
これはすごい進歩だと思う。荒くれ者が出家したくらいの変わりようだ。
年を重ねて来ると、本当に言ってはならない事や、してはいけない事がわかって来る。
特に、他人の肉体的な欠点を指摘したり、笑ったりは最低だ。小学生じゃないんだから。
「は~~~~~げ~~~~! で~~~~~ぶ~~~~~!」
なんて言って笑ってちゃいけない。

これからは、他人の身になって考えようとつくづく思う今日この頃です。

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