シドニーからやって来た13歳の甥っ子と暮らす!

 

ノートと鉛筆の画像

オーストラリアで育った甥っ子が中学入学のためにうちに来た

両親と甥っ子の弟はシドニーに残して、先に日本の学校の入学式に間に合うように、一人で彼はやって来た。
私はその時母と二人で暮らしていたので、一部屋を彼に提供して不思議な3人の共同生活が始まった。
母はもう68歳で、私はアパレルのチーフデザイナーという肩書がピッタリくるくらいの年齢。(だいたいわかるでしょ?)

その当時私はパリのライセンスブランドを手掛けていたので、モノトーン系の服装が多く、ちょっとこだわりを持ったファッションメーカーならではの面倒臭そうな女だった。
オシャレなカフェでファッション、洋画やアート作品などについて語ったり、新しい旬なレストランやバーがあれば、我先に駆けつける。
そんな日常が当たり前の様に流れていたし、母と二人で優雅に暮していた。
そこに春から中学生になる13歳の男の子がやって来たんだ。
私は誰からも、まず家庭的と言われた事が無く、生活感が感じられず、まして子供となんて遊び方も知らないだろうくらいに思われていた。
しかし、これがそう捨てたもんでも無く、実は一緒に遊ぶと必ず気に入られて「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と慕われた過去があった。
なぜ、遊び出すと好かれるのか?
それは、私の目線が子供と同じになってしまうからだ。
単純に言うと、子供と本気で遊んで本気で喧嘩してしまうからだ。

同じ次元

カズが来てから、毎日の生活は明るく楽しいものになった。
私もカズと遊ぶ時は、完全に子供の頃に返って思いきり遊んだ。
遊んだのは良かったんだが、カズにとって私はどうやら同じ次元の子供というとらえ方をされたらしい。
私の仕事はとにかく忙しく、土日も家に仕事を持って帰る事が多かった。
カズが来て2週間目くらいのある日、自分の部屋で来シーズンのデザイン画と素材を貼った企画書を見て展示会の構想を練っていた時、カズが部屋に入って来て、私の背中越しに
「ねえ、早くしないとしんちゃん、始まっちゃうよ!!!」
と言った。
し・ん・ちゃ・ん・て???
一瞬頭は来シーズンのパリコレやトレンド、様々なファッションシーンの幻想から、一気に自宅の部屋に戻って来た。

クレヨンしんちゃんか!!!
気が付いた途端に、来春を彩るデザインのファンタジーは、あのイヤ~~~ン!!という変な声と、お尻丸出しのしんちゃんやブリブリザエモンのコミックにかき消された。
「あっ!しんちゃんね、今行くからちょっと待っててね。」
可愛い甥っ子の為だったら、ファンタジーの一つや二つ。
「今行かないと初めから見れないからダメだよ。」
ファンタジーの3つや4つ・・・・。
「今、行くね~~~~~!!!」
その日は、ファッションを捨てた。可愛い甥っ子のために・・・。

だが、こうやって人間、我慢し続けるとロクな事は無い。
毎日のように、しんちゃん攻撃だったりタメグチ攻撃だったりされると、さすがの自称子供好きも凹んでくる。
ある日会社から帰ると、待っていたかのようにカズがすっ飛んできて
「あのね~、今日学校でね~、あ~だこ~だ~~~~!!!」
しかも、その日は明らかにカズは何かにゴネていた。多分、学校で気に入らない事でもあったんだろう。
私の周りを着かず離れず飛び回り、私が聞いてないと言ってはムクレ、服を引っ張ったり睨んだりした。

すさまじい怒鳴り声

「ダメダメ!!僕の話、聞いてな~~~い!!」
多分、その日が自分の中の許容範囲のMAXだったんだろう。
こんな時、下手に子供に好かれる子供みたいな性格は、かえって子供以下になるという事を私は学んだ。
「もういいよ・・自分の部屋に行く。」
と言って、ぷいっと部屋の中に消えたカズに、怒りが胸の奥から湧き上がって来て、もう止められなくなった。

部屋のドアをガバッと開けて、
「うるさい!!ガタガタ言ってんじゃないよ!!何をごねてんだよ、私はそういうすねたような物の言い方が大っ嫌いなんだよ~~~~~~!!!」
近所に響き渡るような、多分生涯あんな大声は出ないだろうと思われるすさまじい声で怒鳴った。

それを見たカズの顔は、そのあまりの怒りと大声と見た事も無い私の顔に驚くというよりは、むしろ白けて見えた。
子供の白けた顔も結構キツイよ~。
カズは平たい声で、
「今日はもう、一人になりたいです。」
と、大人びた口調で言って、机に向かってしまった。
でも、ドアの隙間から明らかに泣いている様な後ろ姿が見えた。
自分の大人げなさに、胸がパンパンになった。
シドニーから一人で慣れない日本の叔母の家に来て厄介になってる、それは子供心にも少なからずストレスはあったと思う。
精一杯私と母の生活に溶け込もうとしてくれたのに・・・。

次の日の朝、私はカズの部屋に行って
「昨日は言い過ぎた。ゴメンね。」
と素直に謝った。
カズは満面の笑みで
「うんっ!!」
と言って、許してくれた。
大きくなってからカズは、事あるごとにその時の経験を両親に語っていたらしい。
あんなにすさまじく人に怒られた事が無かったので、目が覚めた。あの日が自分の転機になったって。(13歳の転機ったら、大した事無いけどね。)

帰国子女は、日本の学校にすぐに馴染めなかったり、イジメにあったりする子も多いらしい。
あとから聞いた話では、そんな経験もしていたようだ。それなのに、しまいには私に怒鳴られて。
ホントにごめん。私の方こそ大人げないよ。
でも、その一件があってからも、カズと私は本当に仲が良い。
時々、
「あの時は凄かったよな~~!!」
と、冗談交じりにカズは話す。
大人の喧嘩じゃこうは行かないけど、子供の頭の柔軟性と、何より底辺にはお互いの信頼があるから、笑い話なんだ。
私もそれ以降、自分は子供に好かれるなんて思わないようにしている。
自分のイメージは、周囲が感じている通りのちょっと面倒くさい女で結構だと思っている。
じゃなかったら、子育てで苦労している人達に申し訳ないもの。

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